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民俗芸能調査クラブ2014

民俗芸能調査クラブは、ダンサー、演出家、俳優、音楽家などのアーティストが、民俗芸能をリサーチし、自身の活動に結びつけるためのプロジェクトです

大森「水止祭」 萩原

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調査日:7月14日
調査場所:東京都大田区大森町
調査者:萩原雄太

 

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 大田区京浜急行大森町駅から徒歩10分ほどの住宅街にある厳正寺。なんの変哲もない住宅街で、まさかこんな奇祭が開催されているとは……。

 「水止祭」は、鎌倉時代から700年続くお祭りであり、奇祭として名高い。その奇祭たる所以を語る前に、いったいなぜこの祭りが誕生したのかを語ろう。

 

 1321年武蔵の国に大干ばつが起こり、大量の死者が出ることとなった。そのため、厳正寺の法密上人によって雨乞いが行われた。上人が、藁で龍神の形を作り、7日間祈祷を続け、海に龍を沈めるとたちまちに雨が降ったのだ。

 だが、話はそれだけで終わらない。

 その2年後、今度は雨が数十日間降り止まない悪天候に見舞われた。ただでさえ水はけの悪い大森地域。またしても、死者や土地を捨てるものが相次いだ。中には「2年前の雨乞いのせいだ」と、上人を恨むものさえ出たという。またしても上人の出番。今度は、住民たちに龍をかぶらせ太鼓を叩き法螺貝を吹かせると、雨はたちまちやんでしまったのだ。

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 住人たちは、この記憶をもとに、祭りを開催するようになる。

 つまり、「水止祭」という名前がついているが、これは「雨乞い」と「雨止み」という2つが融合しているのだ。

 奇祭は、14日13時の「道行」から始まる。

 寺から200m程度離れた大森東中学校前に集った人々。獅子舞、花籠、警固と呼ばれる子どもたちが列を作っているのだが、その最前列にはなぜか藁縄でぐるぐる巻きにされた男2人が……。13時を迎えると、彼らは道に寝転がり、祭りは開始される。周囲の祭り参加者は、バケツで水をぶっかけながら、6人がかりでその2人の男を少しずつ運んでいくのだ。

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 少しずつ運ばれていく、ぐるぐる巻の男たちと、バケツからバシャーっとかけられる水。子どもから大人まで、ずぶ濡れになりながら、この祭りを楽しんでいる。もちろん、観客にも水の被害が及ぶ。男たちは、運ばれるたびに、手にしたほら貝を吹いている。ドMか、それとも往年の名番組『お笑いウルトラクイズ』なのか……。

 厳正寺の人に話を聞いた所、この2人の簀巻き男たちは、龍に見立てられているのだという。確かに藁縄には、龍の頭がついている。しかも、龍は水をかけられて喜んでいるから、ほら貝を吹いているのだそう。お笑いウルトラクイズといえば、ダチョウ倶楽部上島竜兵だが、こちらの龍も、やはり、相当のマゾヒストであるらしい。30分ほどの時間をかけて、寺に到着し、水かけは終了した。40年前は、倍以上の距離をみちゆきしていたそうだが、現在は道交法などの関係で短縮された。

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 そして、寺に設えられた櫓の上に運ばれる。その時、中の男たちは身体を揺さぶって拒否の意志を示す。「大丈夫か……」と思っていたが、どうもこれは演技であるらしい。まるで熱湯風呂に入れられる竜ちゃんのように、洗練されているリアクション芸だ。舞台に載せられた2人の龍は、藁縄を解かれると、立ち上がり、気持ちよさそうにほら貝を吹き鳴らした。

 

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 と、ここまでが奇祭である所以であり、水止祭のオープニングだ。寺の人に聞いた所、ここまでが雨乞いであるらしい。貴重な水を贅沢に使えば雨が降るのではないか、そんな人々の気持ちが読み取れる。もちろん、だからといって大の男をぐるぐる巻にする気持ちはわからない。

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 そして、ここからが水止祭の本番。

 解かれた藁縄は、舞台の端に設えられ、結界としての役割を果たす。なんて派手なオープニングなのだろうか。LUNA SEAのライブで確かヘリコプターから登場するという演出があったけど、なんだかそれに近い気概(とりあえずびっくりさせてやろう)が伝わる。しかし、奇祭を目当てとする人々は、続々と帰っていく。ここからは、普通の祭りなのだ。

 花籠の女性2人と、雄獅子、若獅子、そして雌獅子の3人が舞台上で水止舞という儀式を2時間ほど行う。花籠はササラを持ち、獅子は太鼓をお腹に装着している。櫓の上には、彼らとは別に、笛や歌を歌ったり、マイクで解説をする人々が座るオケピのような場所がある。

演目は……

1雌獅子の舞
2出羽の舞
3雌雄若三匹獅子仲良く舞う(と、資料に書いてある)
4コホホーンの舞
(休憩)
5雌獅子かくしの舞
6仲良く三匹が踊る(歌あり)

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 話を聞くまで気付かなかったが、彼らが着ているのは浴衣ではなく袴。もともとこの辺りには鎌倉武士が住んでおり、彼らが漁民として海苔を採っていた。出自が武士だから、「品がある」というのが、この舞の特徴。確かに、足のあげ方、踏み方などは勇壮だが、しっかりと取られた軸がぶれることはなく、他の獅子舞で見られるような頭を降る動きは見せていない。途中、には舞手のメンバー紹介も行われる。どうやら、高校生や大学生が舞手のようだ。炎天下の中、さすがに老人には舞えないだろう。

 水止舞のメインは、5番目に行われた「雌獅子かくしの舞」。どうにかして雌獅子の前に出ようとする(求愛しようとする、という意味?)若獅子と、それを阻む雄獅子の戦いを描いている。途中に、マイクで解説をしてくれるので理解もしやすい。とてもゆっくり行われるトムとジェリーのような感じ。

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 身体性は変わらないが、立ったままの花籠の間を通って場面転換が表されたり、随所に演劇っぽい仕掛けが施されている。小芝居といえば小芝居なんだけど、ちょっと感情移入してしまって思わず、若獅子ガンバレと心のなかで応援してしまった時はアニメに熱中する子どものようで、なんだか恥ずかしいような気持ちになった。30分ほど舞が続いた最後、若獅子が雌獅子の前に出られた時には、ちょっとした達成感すらも感じる。地団駄を踏む雄獅子。その踏み方だけで悔しさや怒りがにじみ出てくるかのよう。

 舞が終了すると、獅子頭をかぶせるファンサービス。なんだかよくわからないけど、ご利益があるということなので、志願したが、重い……。その重さは3kgということで、2時間舞っていた若獅子の男性は顔を真赤にしていた。

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 普通、獅子舞は神社で行われる。寺で行われるのは珍しい。しかも、本堂では盂蘭盆会の法事を執り行っている中、境内では獅子舞が行われているという、ちょっと意味の分からない光景だ。なお、記憶にあるかぎり、ここ40年ほど、雨止舞の時には、雨が降ったことはないそうだ。この日も、午前中には小雨が降っていたが、午後になると太陽が照りつけていた。