民俗芸能調査クラブ2014

民俗芸能調査クラブは、ダンサー、演出家、俳優、音楽家などのアーティストが、民俗芸能をリサーチし、自身の活動に結びつけるためのプロジェクトです

熱田神宮の歩射神事 はぎわら


熱田神宮の歩射神事(途中まで) Bowing Festival in Atsuta Shrine - YouTube

 

1月15日

愛知県名古屋市熱田区 熱田神宮

 名古屋駅から名鉄で10分程度、名古屋の人なら一度は行ったことがあるような、東京でいうところの明治神宮のような神社が熱田神宮だ。2月に僕の作品が愛知芸術劇場で上演されるのでhttp://www.aac.pref.aichi.jp/syusai/publicimagelimited/index.html、プロモーションに行くついでになんか祭りが見れないかと思っていたところ、「歩射神事」という祭りが熱田神宮で行われている。これはもう行くしかない。

 

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 「歩射神事」は毎年1月15日に行われている神事である。以下、熱田神宮のホームページを引用。
 「豊年と除災とを祈る神事で、午後1時より神楽殿前庭で行っております。俗に「御的(おまとう)」ともいわれ、大勢の参拝者がおとずれます。初立・中立・後立の各2人の射手(神職)が矢を2本づつ、各3回、計36本を奉射します。最後の矢が射られたと同時に参拝者が一斉に大的を目指して押しかけ、特に大的の千木(ちぎ:大的に付した木片)は古くより魔除けの信仰があり、多数の参拝者がこれを得ようと奪いあうさまは壮観です」

 なお、すでに室町時代にはこの祭りについての記述が残されているが、その起源は定かではないという。

 しかし、この日は1月にしては珍しいほどの大雨。果たして、儀式は行われるのかと思って電話を入れたら予定道理開催するということ。名鉄宮前駅を下車し、境内で宮きしめんを食べて身体を温めてから儀式が行われる神楽殿前庭へと向かう。例年であれば、多くの人が集うはずなのだが、大雨ということもあり、30分前の段階で一般客としては一番乗り。傘を片手に13時の開始を待っていると、神官たちが列をなして入場してくる。

 そのうち、ポツポツとギャラリーが集まってきた。例年来ているというおじさんに聞くと、どうやら、全て終わるのは15時過ぎになるという。この寒さのもとで2時間以上……。覚悟を決めて開始時刻を待つ。後ろのほうから「傘で見えない」という声が聞こえ、申し訳ない気持ちに。

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 13時になると、別の神官たちがやってきて、儀式が始まる。まずは、的の前で直会。5人の白い服を着た神官たちが、的の前で盃を飲み干す。神主たちの身体からは、どことなく品格、品位、格式、格調、権威などの言葉が浮かんでくる。いったい、この身体はどうやってできているのだろうか? と疑問に思う。的の近くで、リーダー的な神官が、小さな弓を射るパフォーマンスみたいなことを行う。

 直会が終わると、神官たちは、弓を射るためのテントに移動する。なぜか5人の神官がザザっと一斉に的を振り返るという謎の振付を経た後、いよいよ、儀式の始まりだ。だが、しかし、ここで問題が発生した。見えないのだ。神官たちが矢を射るテントは風よけのためか、幕で覆われている。その幕が邪魔をして、2人同時に行ううちの一人の身体の半分しか見ることができない。「全然ダメだねえ」と周囲のおじさんと笑い合う。

 それでも、身体半分だけ見えた矢を射る姿勢は、静謐さと力強さを感じる。例えるなら、身体が鉛のように、そこにデンっと置かれている感じとでも言おうか。手にしている弓矢こそが、彼らにとっては現実の身体であり、肉体は、それを支える台座とか三脚のようなものに過ぎない。それは、身体の消失であると同時に、「確かさ」の獲得のように見える。全国各地の神社では、矢を放つ神事が行われているのだけど、もしかしたら、このような身体性が、神と向かい合う身体というものに近いのではないか。むしろ、この身体性を求めて、全国で同様の儀式が行われるようになったのではないか、と推測する。

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 が、雨がひどい。そして、後ろの人の傘のしずくで、僕の背中はずぶ濡れになり、末端冷え性のつま先は、もはや凍傷になったのではないかと思うくらい感覚を失っている。このままでは体調がまずいと思い、まだ8本しか射ていないところで熱田神宮を後にする。民俗芸能を調査する上で「無理しない」というのはとても重要なことなのです。

 歩射神事には36本の矢が射られたあとに、一斉に観客たちが人々が駈け出して、的につけられた千木を持ち去るという一大イベントがあり、足が速そうな男たちが濡れながら今か今かと待機している。人々が一斉に駆け出すさまが圧巻であるために、中京テレビやCBCなどのメディアが数多く訪れていた。なんでも、今年はこの神事始まって以来の「フライングによりやり直し」という珍事が発生したそうな。見たかった……