民俗芸能調査クラブ2014

民俗芸能調査クラブは、ダンサー、演出家、俳優、音楽家などのアーティストが、民俗芸能をリサーチし、自身の活動に結びつけるためのプロジェクトです

子之神大黒天 柴燈護摩


子之神大黒天「柴燈護摩火渡り祭」 千葉県我孫子市 - YouTube

 

10月26日
千葉県我孫子市


 常磐線で上野からおよそ30分。我孫子市は、手賀沼をたたえるベッドタウンである。我孫子駅からバスに乗り15分ほど行くと、手賀沼やその周辺に開発された「手賀沼ニュータウン」を見下ろす高台にあるのが「子之神大黒天」がある。ここで、毎年10月第四日曜日14時から「柴燈護摩」が行われる。

 

 「火渡り」が行われるのだ。

 山伏たちが、苦しげな表情を浮かべながら火の燃え盛る場所を渡り切るあれだ。普段、神社で行われる祭りにばかり足を運んでいるので、仏教の祭りというのもまた気になる。境内では、「梵天」という無病息災を祈願した竹の棒(先には赤い紙が付いている)を販売しており、これを購入すると、火渡りに参加できるということ。マジか! 500円を惜しげも無く支払う。

 開始時刻となる2時前になると、境内には、数百人のギャラリーが詰めかけていた。火渡りが行われる本殿前の囲いはぎっしりと人で埋められている。14時に山伏が入場してくるから、参道をあけてほしいというアナウンス。そして、どこからともなく声明の声も聞こえはじめる。高まる期待。しかし、そんな気持ちの高まりを無視して、暴走族が幹線道路を「ブォン、ブォォォン!!」と疾走する音が全てをかき消していく。さすが、我孫子クオリティ……。

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 2時きっかり。「ブォォォォ」と、文字にすると暴走族とあまり変わらないほら貝の音色とともに、山伏たちが境内に入場した。紫の法衣を先頭に、10人ばかりいるようだ。中には恵比寿様のような面をかぶっている山伏もいる。

 所定の位置につくと、山伏たちは呪文のようなものを唱えはじめた。発声としては普通だけど、言葉が難しいのと、ちょっと変な節回しなのが面白い。けど、マイクで拾うのはいただけない。台無しだよ。呪文を唱えたり、印を結んだり、いかにも山伏的なことをするので、ミーハー心が掻きむしられる。そして、マサカリや、弓を使った儀式の後は、いよいよ、火が点火される。

 結界を張られた境内の真ん中には、大量の杉(ヒノキ?)の青い葉がうずたかく積まれている。そこに油をしたたらせ、2人の山伏は火をつける! もうもうと白い煙が上がると、なんだか、突然何かがデーンと「現れた」ように錯覚する。そして、次第に煙から赤々とした火に変わる。火柱の高さは5m以上はあろうかというもの。俄然テンションが上がらずにはいられない。境内に張られていた説明によれば、火は仏の知恵の象徴であり、そこで焚かれる護摩木は、私たちの煩悩の象徴であるということ。煩悩を、仏の知恵が焼き尽くす! という趣向であるようだ。さらに、火が焚かれながら、そのBGMには、念仏と太鼓の低い音。その音が、気づくと身体の中にスッと入ってきてしまう。まるで、ベルベットアンダーグラウンドの「ヘロイン」を聞いているような、サイケな感覚に襲われる。そこに先ほどの恵比寿が、「招福小判(だったはず)」を売り歩く。「催眠商法」という言葉が頭をよぎった。

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 あらかた火が収まると、ついに火渡りが始まる。塩をまき、炭をある程度払いのけられ真ん中には道ができている。そこを、えい! という気合で渡るのだ。もちろん、さっきまで轟々と火が燃えていた(まだ、道の横ではかなり大きな火があがっている)ところを渡るのだから、熱くないわけはない。さすが行者たちも、目を固くつぶりながら渡りきった。

 そして、一般参列者の火渡りだ。山伏二人に背中を押され渡る。もちろん、一般人なんて修行をしていないから裸足でぴょこぴょこ跳ねながら渡って、向かい側にある、盛り塩の山に足を突っ込んでいる。遠方から見ていると、まるで、2人の山伏はウォータースライダーの監視員のように見えてくる。そして、何百人という参列者をさばいていくのだ。ものは試しにとやってみたが、行列に並びたくない僕が火渡りをしたのは、もう最後の最後だったので、ほとんど火は消えていたし、全く熱くなかった。残念ながら、神聖気持ちにもなれなかった。しかし、修験者たちが「マン!」と言って、背中を押してくれたので、大満足だった。

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 ちなみに、この祭り、起源はそんなに古くなく、「100年くらい前かなあ」ということ。近年は、テレビなどで(といっても千葉テレビだけど)紹介されているので、だんだんと参加者が増えているそう。やたら、小さい子供を連れた家族連れが多かった。

 さらに豆知識。子之神大黒天の位置する高台には「子ノ神古墳」があり、古代から信仰の場所として栄えていたことがわかる。子ノ神大黒天の境内にも、狛犬が置いてあり、神仏が習合した聖地だったのだろう。煙が上がり、火が燃え盛る様子に、ちょっとした神聖さのようなものを感じたのだけど、この「神聖」に動かされた心が、神社や仏閣を生み出したのかもしれない。それが、神であるか、仏であるかはもしかしたらあまり重要じゃないのかもしれない。