民俗芸能調査クラブ2014

民俗芸能調査クラブは、ダンサー、演出家、俳優、音楽家などのアーティストが、民俗芸能をリサーチし、自身の活動に結びつけるためのプロジェクトです

初音ミクマジカルミライ

初音ミク「マジカルミライ 2014」in TOKYO
2014年9月20日(土)
東京体育館 メインアリーナ

民俗芸能とは関係は無いが、調査クラブで色々な民俗芸能を見てまわる中で、かつての伝統芸能や民俗芸能が、その当時の生活環境に大きく影響をうけながら形を変化させていたことに気付いた。
そうした生活環境と芸能の関係からみた時に、今、現在の私たちの生活環境と芸能、文化とは、どういった関係性にあるのだろうか。
という疑問が出てきた。
また、そうした現在の生活環境から、かつての民俗芸能が担っていたようなコミュニティへの帰属意識、心の拠り所としての文化、芸能は、今の時代にあった形として、新たに生み出すことは可能なのか。という疑問が湧いてきたので、現代の文化ということで、初音ミク『マジカルミライ2014』のライヴを見に行った。

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13時からのステージで、11時半頃
会場の東京体育館に到着したが、すでにグッズ販売のテントには長い行列ができており、会場に来ている人達の熱気はかなり高かった。
その中には、何名か初音ミクのコスプレをした人達がいたが、全員で10名ほどしかおらず予想していたより少なかった。
また、コスプレをしていたのは男性の方が多く、女性は2,3名。
あとは、青い法被にハチマキをつけた秋葉原にいそうな人達が30名くらい、中学生位の子供と来ている親子連れ、40歳代位の夫婦、会社仲間や外国人のファン姿もちらほら見かけた。

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会場の電気が消えると、皆一斉にペンライトを持って立ち上がり『きゃーミクちゃんー!』等、歓声をあげた。
まず最初は、生演奏なので演奏をする人達が入場。演奏者が入場するだけで、会場内は盛り上がり、更に舞台上に二人のダンサーが上手下手から躍りながら登場すると、更に会場は盛り上がった。その後ダンサーが上手下手へいなくなり真ん中に初音ミクの映像が表れると、皆一斉に『きゃー可愛い!』『ミクちゃん可愛いよー!』等と、あたかもそこに生きている人間が立っているかのように、また、そのかけ声に初音ミクが応答してくれると信じて疑わないかのように、"初音ミク"という存在に対して言葉を投げかけていた。
その後、初音ミクも『今日はありがとう。最後まで楽しんでいってね。』と片言の日本語で観客に話しかけ、その言葉に更に観客達は熱狂した。

初音ミクが何曲か歌うと、ボカロの他のキャラクターが出てきて、そのキャラクターの持ち歌が歌われた。初音ミク以外に3,4人のキャラクターが登場し、新しいキャラクターが表れる度に、観客達は『〇〇様~カッコいい!』等と歓声をあげていた。

二時間のライヴで、MCは特に入らず、正面舞台にいるボカロがひたすらその場で歌いつづけ、特に変わった演出等なかったが、観客達は曲ごとにペンライトの色を変えたり、決まった相槌を打ったりして、ライヴを楽しんでいた。

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私は、初音ミクのファンではないので、ライヴで歌われた曲は殆ど知らず、また、相槌の入れ方も分からなかった。段々にボカロが歌い続けているだけなのにも、単調なことの繰り返しのように感じられてきて途中飽きてしまった。
曲もノリやすく良い曲だなと思うものが多かったので、あまり初音ミクを知らない私でもノレそうな気がしたのだが、初音ミクのファンの人達とは、同じ初音ミクの映像を見ていても、当たり前だが見ているものが違ったらしく、なかなかあの会場のノリについていけなかった。

だが、あのライヴ会場にいた観客達のノリは、私が初音ミクを知らないということを別にしても、少し独特なような気がした。
それは、"初音ミク"対"一観客"という1対1の縦のラインが無数に見え、観客同士で関係を取るような横のラインは見えないように感じたのだ。
観客一人一人の目の前に一台のパソコンが置いてあり、それに映る初音ミクの映像を見て、個別に興奮しているように見えたのだ。これなら家でパソコンを見ていても同じなんじゃないかとさえ思えた。

音楽のライヴに行ったことがないので、他のライヴとの比較が出来ないが、私のいわゆる"ライヴ"のイメージは、同じアーティストを好きな者同士、一体となって騒ぐことで普段の仕事のストレスやエネルギーを発散しているものだ。だから、普通のライヴでは横との繋がりがあるものだと思っていたのだ。

なので、観客達は確かに楽しそうに叫んだり歌ったりして、普段発散出来ないエネルギーを爆発させているように見えるのだが、1対1の関係だけで、その強烈なエネルギーは本当に発散されるのだろか?と疑問が湧いてきた。

これは、私がそう感じるだけであって初音ミクのファンの間には、何か共有しているものがあり、エネルギーが発散されているのかもしれない。ので、何とも言えない。

だが、この1対1のラインが無数に存在していること自体は、新しい集団の在り方だなと思った。
今まで観てきた民俗芸能や伝統芸能とはあきらかに違うからだ。
民俗芸能では、初音ミクのように実際には存在しない神や先祖の霊に対して、食べ物や芸能を奉納する。だが、その際に共同体で一緒に奉納するのだ。
現代でもサッカーのサポーターや音楽のライヴ等、芸能が果たしていた役割を別の形でやっているものはたくさんあるように感じる。

それが初音ミクのライヴでは横との繋がりがなく、"初音ミク"対"一観客"("神"対"一個人")であったのである。
このことについては、日本の変遷等を更に詳しく調べ、はっきりさせたいと思っている。