民俗芸能調査クラブ2014

民俗芸能調査クラブは、ダンサー、演出家、俳優、音楽家などのアーティストが、民俗芸能をリサーチし、自身の活動に結びつけるためのプロジェクトです

小宮神社の三匹獅子舞 はぎわら


小宮神社の獅子舞 あきる野市無形民俗文化財 - YouTube

2014年9月23日

東京都あきる野市

 多摩、八王子、相模原にかけての地区には、驚くほどたくさんの獅子舞が残されている。獅子舞といっても、たむらけんじがやっているあれではない。一人立ちの三匹獅子舞というもので、雄の獅子が二匹、雌獅子が一匹で踊っている。今まで見た中では、水止舞や鳥屋の獅子舞などがこの三匹獅子というジャンルに属されるもの。僕は勝手にスリーピースバンドのようなものだと考えている。

 

 では、なぜ場所を違えてこんなにたくさんの三匹獅子舞が伝承されているのだろうか? それぞれの地区で勝手に生み出したとは考えにくい。おそらく、かつて、この地域に獅子舞ブームが起こったのだろう。それを、真似して、いつの間にかその地域独自の形へと姿を変えていったのではないかと察せられる。つまり、三匹獅子舞を観察するためには、比較対象となるさまざまな三匹獅子舞を見なければならない。というわけで、あきる野市の小宮神社に赴いた。

 福生駅西口からバスで10分あまり。小宮神社では毎年秋の彼岸に三匹獅子舞が行われている。

 この獅子舞の特徴は、獅子の頭についた紙。ちょっと尋常ではないボリュームで、このルックスこそが、僕がこの祭りを見に行こうと思った決め手となった。「気持ち悪い」と評される茨城県大洗町ゆるキャラ「アライッペ」にどことなく風貌が似ている……。

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 昼間と夜間の2部構成で行われているこの祭り。福生駅からバスに乗り込み6時過ぎに現地に着くと、すでにすでに道行が行われていた。片側2車線の道路のうち、1車線を通行止めにして行われるこの道行は「ぶっこみ」と呼ばれている。「ぶっこみ」と聞いて「特攻」という文字を浮かべてしまったのは内緒だ。

 囃子とともにササラをもった警固と、獅子、そして、なにやら棒を持った人々などが行列をなしている。大通りを逸れ、住宅街を少し歩くと、小宮神社の石段にたどり着く。

 石段を上がると、アナウンスもなく、おもむろに棒を持った少年たちが登場した。どうやら棒術の演舞をするらしい。今回、全く下調べをしていなかったので何もわからないのだが、少年たちの演舞が終わると、続いて、こちらも小学生くらいの男の子たちによる三匹獅子がスタート。前面には2種類のめくりが設置されており、棒術と獅子舞を交互に演じていくらしい。

 小学生たちの演舞や獅子舞は、はじめは発表会感覚で見ていられるけど、これをずっと見続けているのは辛くなってくる……。30分ほど見ていても、一向に終わる気配がない。あれ、もしかして、これ外れなんだろうか? 来て損してしまったのか、と思っていたら、獅子舞の中の人は、中学生に交替。ようやく、まともに見られるものになった。

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 おそらく農民の芸能であっただろう獅子舞は、特に足腰が必要になる。どの獅子舞でも「踏む」という動作に対して、かなりの比重が置かれているのだ。ただし、ただ、足をドタドタと踏み鳴らせばいいというわけではない。いかに、身体の重さを土に伝えることで、その独特のセクシーさが生まれる。だから、小学生のガキンチョがひょこひょことやっているのはちょっと見てらんないのだ。頑張ってるのはわかるんだけどね、ごめんよ。

 この祭りが開始されたのは元文の頃とも天保の頃とも言われており、少なくとも300年あまりの歴史を持っている。どうしてこの「棒使い」とともに獅子舞が奉納されるのかは不明だが、棒術は「天然理心流」という流派がベースとなっている。どこかで聞いたことあるなと思ったら、新選組近藤勇沖田総司らが体得した剣術だった。そういえば、新選組はここからほど近い日野出身の下級武士が中心となって結成したはず。

 棒術をやっている男の子たちの様子は楽しそうだ。やっぱりちゃんばらが好きなんだろう。しかも、大人も公認で、棒や木刀を振り回せるんだからこんなに楽しいことはない。多分、後継者には事欠かないのではないか。

 保存会の人に話を聞くと、この獅子舞では獅子たちが生まれてから人間に刀を渡すまでを描いている。そこに、雌獅子を取り合う雄獅子といったラブロマンスなんかも入っているそうだ。とはいうものの、なんだか、同じような演目ばかりだし、ストーリー展開もよく見てても意味不明だったりする。ただ、小学生から中学生、高校生へと中の人が入れ替わっていき、だんだん踏み方がしっかりしてくることが獅子の成長を表していると考えれば、そうは見えなくもない。ただし、結構こじつけな感じがする。

 ただ、圧巻だったのが、OBたちによる獅子舞。基本的に、獅子舞は小学生から高校生までの男子によって舞われる。しかし、飛び入り参加で、OBたちが踊るのだ(だけど、「飛び入り」と欠いてあるだけで、もしかしたら純粋な飛び入り参加じゃないのかも)。解説でも「本日のメインイベント」と言われていた通り、この飛び入りが圧巻だった! 小学生のステップが、トントンだとすると、中学生はドンドン、でも大人たちのステップはズンズンなのだ。深く沈み込む足腰、彼らが生み出した振動が、観客席の方にまで地を這って響いてくる。これはちょっと感動する経験だった。「反閇(へんばい)」というのは、足で踏み固めて土地を神聖なものにする儀式だけど、確かに神聖さのようなものを感じてドキドキした。

 終電の関係で最後までは見れなかった(福生の終電は早いのだ)。祭りは22時半まで続き、クライマックスには人間に対して刀を授けるシーンがあるというがそれは見れなかった。現在は、取り決めによって22時半に完全に終わらなければならないが、古老によれば、かつては24時を過ぎて深夜2時ごろまで祭りを行っていたこともあったそうな。「飛び入りの人が多すぎて、全然終わらないんだよ」と在りし日を浮かべ、遠い目をする古老。ベッドタウンの小さな神社に、まさかこんな祭りが残ってるとは思わなんだ。